2話 もしかめ
童謡オニシリーズ
姫:♀...元神の鬼喰い姫。見た目は子供だが長い年月を生きている。
男:♂...姫に付き添っている男。鬼に堕ちたが、正気を保っている。少しヘタレ。
女(女の子):♀...女医者。美人だが何かを隠している。
男の子:♂♀...女の兄の子供時代。
兄(鬼):♂...行方不明になっている女の兄。鬼に堕ちる。(中間の唄も担当)
村人:♂♀...患者。
子供:♂♀...女の子をいじめていた村の子供。(始まりの唄も担当)
(女の子、男の子、村人、子供はセリフが少ないので兼ね役でも可能です。
が、村人以外同時時間軸で出てきますので配分お気をつけください。)
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- 唄 子供)もしもし亀よ 亀さんよ
- 世界のうちで お前ほど
- のろまなものは他にない
- どうしてそんなにのろいのか
- 男 「うっぷ。おえっぷ。」
- 姫 「えずくな」
- 男 「うぐっ」
- 姫 「なんじゃ!さっきから!」
- 男 「ずんまぜん。どうにも吐きそうで。うっぷ。」
- 姫 「では、さっさとどこぞで吐いてこい!」
- 男 「一回吐きましたよぉ。腹ん中空っぽですって。うぐっ。」
- 女 「あのぉ......お顔色がすぐれないようですが...」
- 姫 「気にかけるほどのものではない。ほっといても死なぬ。」
- 男 「この扱い...」
- 女 「いえ、ふとしたことでも命に関わる場合がございます。
- もしよろしければ、私どもの元へおこしになりませんか?」
- 姫 「くん(匂いを嗅ぐ)。ふむ。そうだな。好意に甘えよう。」
- 男 「素直に聞くんですか?!」
- 姫 「なんじゃその驚きは?!いいからゆくぞ!」
- 女 「くすっ。仲がよろしいのですね。」
- ー女の家ー
- 姫 「うぐっ。きつい臭いじゃな。」
- 女 「申し訳ありません。薬草を煮詰めていましたもので、
- すぐに臭いを逃がします。
- お辛いかもしれませんがおくつろぎ下さい。」
- 姫 「うむ。問題無い。耐えられぬほどではない。」
- 男 「薬草というと、お医者様のご家系なのですか?」
- 女 「家族はおりません。私が、医学を心得ております。」
- 男 「なんと!あなたが!」
- 女 「はい。よろしければ、お顔色を拝見させていただいても
- よろしいですか?」
- 男 「はい。こちらこそ、お願いしたい~」
- 姫 「鼻の下が延びておるぞ。まったく。しかし、気苦労したであろう。
- 女の身で医師など」
- 女 「いえ。助けになればと思いましたもので...............」
- 姫 「つかぬことを気いてもよいか?」
- 女 「何でございましょう?」
- 姫 「おぬし、ここ最近で何者かに付きまとわれているような感覚
- はあるか?」
- 男 「ちょっと!何てこと聞きてるんですか!」
- 姫 「黙っておれ。正直なところを聞きたい。」
- 女 「.....................はい。あ、いいえ。大丈夫でございます。
- ......何も、何もございません。」
- 男 「しかし、寝床まで用意していただいて。ありがとうございます。」
- 女 「いえ、たいしたことはなさそうですが、
- 安静にされていた方がよいので。ゆっくりお休みになって下さい。
- 何かありましたら、遠慮なくお声をおかけ下さい。」
- 男 「はい!」
- 姫 「まったく、ゲンキンな奴じゃな。」
- 男 「美人は薬にもなるんですよ。」
- 姫 「何を訳の分からんことを。それよりもじゃ。」
- 男 「そうですよ!いったいどうしたんです?あんなこと聞いて。」
- 姫 「ちと、臭うての」
- 男 「鬼...ですか?」
- 姫 「うむ。まだ完全ではないと思うがな。」
- 女 「誰かに付きまとわれてる......か。だったら、どうして私の前に
- 出てきてくれないの。」
- ー回想ー
- 子供 「や~い!のろま!カ~メ!カ~メ!」
- 女の子「う......うう...(泣)」
- 子供 「こっちに来るな!のろまが移っちまう!」
- 男の子「こら!なにやってる!」
- 子供 「へんっだ!のろいからのろいって言ってんだよ~だ!」
- 男の子「なんだと!」
- 女の子「兄さん!いいよ。のろいのは本当だもん。」
- 男の子「だからって、バカにしていいことじゃないだろ!まったく。
- これはおれがいつまでも、守ってやらなくっちゃいけないな。」
- 女の子「ありがとう。兄さん」
- 村人 「あそこの子が医者の先生になったんだと!こりゃ助かるなぁ」
- 兄 「これはあんたの不摂生だ。このくらいの面倒くらい
- 自分で見ろよ。」
- 妹 「兄さん。そんな言い方しなくても。
- (村人に向かって)油断は禁物ですからね。」
- 村人 「(ボソッと)娘のくせに、医者様気取りか。
- 貧乏人がほんに勉強できとるんかのぉ」
- 妹 「...兄さん」
- 兄 「すきに言わせておくさ。」
- 妹 「私はまだ兄さんの真似事だもの。もっともっと勉強して、
- 兄さんの役に立つわね!」
- 兄 「無理はするなよ。お前は俺が守ってやるから...」
- 村人 「娘医者様ほんに腕あがったのぉ!優しいし。
- ええ医者様になられたのぉ。あの兄医者様よりええ。」
- 妹 「そんなぁ。私なんて。兄が居なければ何にも......」
- 村人 「そんなことねぇ。一人でもやっていけるさ」
- 妹 「...だって。ふふ。」
- 兄 「俺は...もう、いらないのか?」
- 妹 「え?兄さん?」
- 兄 「俺は、お前を......お前は、俺に守られる存在で.........」
- 妹 「兄さん?大丈夫?」
- 兄 「うっ.........ぐぐぐっ......」(兄走り去る)
- 妹 「兄さん?にいさ~~~~~ん!」
- ー女の家ー
- 姫 「よう寝たか?」
- 男 「はい、もうすっきりと!薬が効いたみたいです。
- ちょっと苦かったけど.........。」
- 姫 「そうか、ならば安静にしておれ。」
- 男 「はい?」
- 姫 「今宵、来るやもしれん。臭う。」
- 男 「......まだ、人に戻れるんですよね?」
- 姫 「さぁな。人を喰うておらねば可能性はなきにしもあらずじゃがな。
- 人の想いとは、強くもあり、もろくもある。」
- 女 「すみません。家のことお手伝いいただいて。」
- 男 「いえ。これも、一宿一飯の恩義。大したことは出来ませんが。」
- 女 「いいえ。十分でございます。ところで、連れ子様は?」
- 男 「ああ、少し探検してくるそうで、家の見える範囲でと
- 釘を差してますから問題ありません。」
- 女 「そうですか。最近、このあたりで作物が
- 荒らされたりしておりますから。
- ......あ!昼間はみんで見張りを立てておりますので、
- 安心して下さいませ。」
- 男 「あ、すみません。お気をつかわせてしまって。
- ...............あの。変なことをお聞きしますが、身近な方が
- 行方不明になったりとか.........していませんよねぇ?」
- 女 「............!行方...ですか。それは.........」
- 男 「鬼の話は聞いたことありますか?」
- 女 「鬼......ですか?」
- 男 「鬼は苦しいんですよ。苦しみぬいた上、人には戻れない。
- 哀れなモノなのです。」
- 姫 「悪いが、もう一晩厄介になる。よいか?」
- 女 「あ、はい。......どうぞ。」
- ー夜ー
- 男 「きますか?」
- 姫 「来るな。臭いが強い。ぬかるなよ。」
- 男 「へいへい。」
- 唄 兄)もしもしカメよ カメさんよ
- 世界のうちで お前ほど
- のろまなものは他にない
- どうしてそんなにのろいのか
- 女 「?!兄さん?」
- 兄 「よくお前は、こうやっていじめられていたっけな。」
- 女 「兄さん.........今まで、どうして......」
- 兄 「すまないな。お前は俺が守らなくてはいけないと思っていた。
- お前には俺しかないんだと.........」
- 女 「兄さん。私は...私は......」
- 兄 「だが、違ったんだ。お前にもう俺は必要ない。
- 俺には、お前だけが全てなのに。」
- 女 「兄さん!きいて!」
- 兄 「いつからだろう。愛しいお前を少しずつ憎らしく思えてきたんだ。
- 俺より必要とされ、俺より愛され、俺のことを捨てるんだ......」
- 女 「そんな!兄さん!」
- 兄 「苦しかった。とても辛かった。死ぬんじゃないかと思うほど。
- ......だからね。思ったんだよ。どうしてこんなに苦シマナキャ
- イケナインダ。苦シミノ素ハナンダ?」
- 女 「兄さん......?」
- 兄 「愛しい?憎いオマエガイナクナレバ苦しみがキエル。ナクナル。」
- 女 「お.........に......?」
- 兄 「寂しくないよ。俺とヒトツニナルンダ。ウレシイヨナ?
- 嬉しいだろう?」
- 女 「兄さん......」
- 姫 「そこまでじゃ!おぬし、まだ鬼にはなりきっておらんな。
- 今ならまだ戻ることは出来よう。」
- 男 「さ、こっちへ。」
- 兄 「邪魔をするのか?コイツは俺のモノダ。ダレニモワタサン!」
- 男 「聞く耳持たずかよ!」
- 女 「やめて!兄さん!」
- 姫 「よせ!目的はそなたぞ!」
- 女 「ごめんなさい。兄さん。私のせいで苦しめて。ごめんなさい。」
- 姫 「今なら、まだ鬼に堕ちなくともすむ!気をしっかり持て!」
- 女 「私は、兄さんが好き。愛してる。私にはずっと、
- 兄さんしかいないの。」
- 男 「ダメだ......それ以上言っちゃダメだ!」
- 兄 「ホントウニ?」
- 女 「兄さんが、苦しまずにすむのなら、私は、どうなってもいい。」
- 男 「違う!本当の苦しみは.........」
- 兄 「ぐるぁぁぁぁぁ!」
- 男 「やめろ!それだけはやってはいけないんだよ!」
- 兄 「邪魔をするなぁぁぁ!」
- 男 「うぉあ!くっそ!病み上がりで本調子がでねぇ!」
- 姫 「それ以上踏み込めば、後悔することになるぞ。地獄じゃ。
- なんとか、何とか踏みとどまれ!」
- 女 「兄さんの...私は兄さんの役に立ちたい。恩返しがしたい。
- 兄さんの望みを叶えてあげたい。兄さん!」
- 兄 「喰わせろぉぉぉ!」
- 女 「.........うっ。......くぅ。」
- 鬼 「ぅぐるぅぅ。」
- 男 「くっそ!くそがぁぁぁ!」
- 姫 「.........すまぬ。非力なわしを許せ。」
- 女 「に......いさ......ん。わた......し......は......ああああああっ!」
- 姫 「......しっかり味わえ、それが、お前の罪。そして罰じゃ。鬼はの。
- 人を喰うから鬼なのではない。人を喰ってしまったから
- 鬼になるのじゃ。」
- 男 「...............」
- 鬼 「はぁ、はぁ。俺......は...??これは、どうして.........
- オレガ?あ...ああ.........あああああっ!」
- 男 「鬼になるまでに、憎しみと葛藤して苦しむ。
- だが、それ以上に・・・人を、愛しい人を喰ってしまった
- という絶望感で、人は、鬼に堕ちるんだ。
- オマエはまだ運がいい。他の人を喰わずにすむ。」
- ー村はずれー
- 男 「噂になりますかね?」
- 姫 「多少はな。しかし、人が鬼に堕ちる瞬間というのはなんとも。」
- 男 「あなたは餌にありつけるんだからいいんじゃないですか?」
- 姫 「茶かすでない!わしは、腹が減るのが罰なのじゃ。」
- 男 「へ~へ~。そうですか」
- 姫 「人の心というものはほんに、諸刃の剣じゃな。」
- 男 「そっすね。腹減り記録更新するといいですね。」
- 姫 「極限まで来たらお前の身を一つずつ喰らっていってやるわ!」
- 男 「ちょっ!それだけは、勘弁して下さいってば~!」
終