2話 もしかめ

童謡オニシリーズ

姫:♀...元神の鬼喰い姫。見た目は子供だが長い年月を生きている。

男:♂...姫に付き添っている男。鬼に堕ちたが、正気を保っている。少しヘタレ。

女(女の子):♀...女医者。美人だが何かを隠している。

男の子:♂♀...女の兄の子供時代。

兄(鬼):♂...行方不明になっている女の兄。鬼に堕ちる。(中間の唄も担当)

村人:♂♀...患者。

子供:♂♀...女の子をいじめていた村の子供。(始まりの唄も担当)

(女の子、男の子、村人、子供はセリフが少ないので兼ね役でも可能です。

 が、村人以外同時時間軸で出てきますので配分お気をつけください。)

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  1. 唄 子供)もしもし亀よ 亀さんよ
  2.      世界のうちで お前ほど
  3.      のろまなものは他にない
  4.      どうしてそんなにのろいのか

  5. 男  「うっぷ。おえっぷ。」
  6. 姫  「えずくな」
  7. 男  「うぐっ」
  8. 姫  「なんじゃ!さっきから!」
  9. 男  「ずんまぜん。どうにも吐きそうで。うっぷ。」
  10. 姫  「では、さっさとどこぞで吐いてこい!」
  11. 男  「一回吐きましたよぉ。腹ん中空っぽですって。うぐっ。」
  12. 女  「あのぉ......お顔色がすぐれないようですが...」
  13. 姫  「気にかけるほどのものではない。ほっといても死なぬ。」
  14. 男  「この扱い...」
  15. 女  「いえ、ふとしたことでも命に関わる場合がございます。
  16.     もしよろしければ、私どもの元へおこしになりませんか?」
  17. 姫  「くん(匂いを嗅ぐ)。ふむ。そうだな。好意に甘えよう。」
  18. 男  「素直に聞くんですか?!」
  19. 姫  「なんじゃその驚きは?!いいからゆくぞ!」
  20. 女  「くすっ。仲がよろしいのですね。」

  21. ー女の家ー

  22. 姫  「うぐっ。きつい臭いじゃな。」
  23. 女  「申し訳ありません。薬草を煮詰めていましたもので、
  24.     すぐに臭いを逃がします。
  25.     お辛いかもしれませんがおくつろぎ下さい。」
  26. 姫  「うむ。問題無い。耐えられぬほどではない。」
  27. 男  「薬草というと、お医者様のご家系なのですか?」
  28. 女  「家族はおりません。私が、医学を心得ております。」
  29. 男  「なんと!あなたが!」
  30. 女  「はい。よろしければ、お顔色を拝見させていただいても
  31.     よろしいですか?」
  32. 男  「はい。こちらこそ、お願いしたい~」
  33. 姫  「鼻の下が延びておるぞ。まったく。しかし、気苦労したであろう。
  34.     女の身で医師など」
  35. 女  「いえ。助けになればと思いましたもので...............」
  36. 姫  「つかぬことを気いてもよいか?」
  37. 女  「何でございましょう?」
  38. 姫  「おぬし、ここ最近で何者かに付きまとわれているような感覚
  39.     はあるか?」
  40. 男  「ちょっと!何てこと聞きてるんですか!」
  41. 姫  「黙っておれ。正直なところを聞きたい。」
  42. 女  「.....................はい。あ、いいえ。大丈夫でございます。
  43.     ......何も、何もございません。」
  44. 男  「しかし、寝床まで用意していただいて。ありがとうございます。」
  45. 女  「いえ、たいしたことはなさそうですが、
  46.     安静にされていた方がよいので。ゆっくりお休みになって下さい。
  47.     何かありましたら、遠慮なくお声をおかけ下さい。」
  48. 男  「はい!」
  49. 姫  「まったく、ゲンキンな奴じゃな。」
  50. 男  「美人は薬にもなるんですよ。」
  51. 姫  「何を訳の分からんことを。それよりもじゃ。」
  52. 男  「そうですよ!いったいどうしたんです?あんなこと聞いて。」
  53. 姫  「ちと、臭うての」
  54. 男  「鬼...ですか?」
  55. 姫  「うむ。まだ完全ではないと思うがな。」
  56. 女  「誰かに付きまとわれてる......か。だったら、どうして私の前に
  57.     出てきてくれないの。」

  58. ー回想ー

  59. 子供 「や~い!のろま!カ~メ!カ~メ!」
  60. 女の子「う......うう...(泣)」
  61. 子供 「こっちに来るな!のろまが移っちまう!」
  62. 男の子「こら!なにやってる!」
  63. 子供 「へんっだ!のろいからのろいって言ってんだよ~だ!」
  64. 男の子「なんだと!」
  65. 女の子「兄さん!いいよ。のろいのは本当だもん。」
  66. 男の子「だからって、バカにしていいことじゃないだろ!まったく。
  67.     これはおれがいつまでも、守ってやらなくっちゃいけないな。」
  68. 女の子「ありがとう。兄さん」

  69. 村人 「あそこの子が医者の先生になったんだと!こりゃ助かるなぁ」
  70. 兄  「これはあんたの不摂生だ。このくらいの面倒くらい
  71.     自分で見ろよ。」
  72. 妹  「兄さん。そんな言い方しなくても。
  73.     (村人に向かって)油断は禁物ですからね。」
  74. 村人 「(ボソッと)娘のくせに、医者様気取りか。
  75.     貧乏人がほんに勉強できとるんかのぉ」
  76. 妹  「...兄さん」
  77. 兄  「すきに言わせておくさ。」
  78. 妹  「私はまだ兄さんの真似事だもの。もっともっと勉強して、
  79.     兄さんの役に立つわね!」
  80. 兄  「無理はするなよ。お前は俺が守ってやるから...」
  81. 村人 「娘医者様ほんに腕あがったのぉ!優しいし。
  82.     ええ医者様になられたのぉ。あの兄医者様よりええ。」
  83. 妹  「そんなぁ。私なんて。兄が居なければ何にも......」
  84. 村人 「そんなことねぇ。一人でもやっていけるさ」
  85. 妹  「...だって。ふふ。」
  86. 兄  「俺は...もう、いらないのか?」
  87. 妹  「え?兄さん?」
  88. 兄  「俺は、お前を......お前は、俺に守られる存在で.........」
  89. 妹  「兄さん?大丈夫?」
  90. 兄  「うっ.........ぐぐぐっ......」(兄走り去る)
  91. 妹  「兄さん?にいさ~~~~~ん!」

  92. ー女の家ー

  93. 姫  「よう寝たか?」
  94. 男  「はい、もうすっきりと!薬が効いたみたいです。
  95.     ちょっと苦かったけど.........。」
  96. 姫  「そうか、ならば安静にしておれ。」
  97. 男  「はい?」
  98. 姫  「今宵、来るやもしれん。臭う。」
  99. 男  「......まだ、人に戻れるんですよね?」
  100. 姫  「さぁな。人を喰うておらねば可能性はなきにしもあらずじゃがな。
  101.     人の想いとは、強くもあり、もろくもある。」
  102. 女  「すみません。家のことお手伝いいただいて。」
  103. 男  「いえ。これも、一宿一飯の恩義。大したことは出来ませんが。」
  104. 女  「いいえ。十分でございます。ところで、連れ子様は?」
  105. 男  「ああ、少し探検してくるそうで、家の見える範囲でと
  106.     釘を差してますから問題ありません。」
  107. 女  「そうですか。最近、このあたりで作物が
  108.     荒らされたりしておりますから。
  109.      ......あ!昼間はみんで見張りを立てておりますので、
  110.     安心して下さいませ。」
  111. 男  「あ、すみません。お気をつかわせてしまって。
  112.     ...............あの。変なことをお聞きしますが、身近な方が
  113.     行方不明になったりとか.........していませんよねぇ?」
  114. 女  「............!行方...ですか。それは.........」
  115. 男  「鬼の話は聞いたことありますか?」
  116. 女  「鬼......ですか?」
  117. 男  「鬼は苦しいんですよ。苦しみぬいた上、人には戻れない。
  118.     哀れなモノなのです。」
  119. 姫  「悪いが、もう一晩厄介になる。よいか?」
  120. 女  「あ、はい。......どうぞ。」

  121. ー夜ー

  122. 男  「きますか?」
  123. 姫  「来るな。臭いが強い。ぬかるなよ。」
  124. 男  「へいへい。」

  125. 唄 兄)もしもしカメよ カメさんよ
  126.     世界のうちで お前ほど
  127.     のろまなものは他にない
  128.     どうしてそんなにのろいのか

  129. 女  「?!兄さん?」
  130. 兄  「よくお前は、こうやっていじめられていたっけな。」
  131. 女  「兄さん.........今まで、どうして......」
  132. 兄  「すまないな。お前は俺が守らなくてはいけないと思っていた。
  133.     お前には俺しかないんだと.........」
  134. 女  「兄さん。私は...私は......」
  135. 兄  「だが、違ったんだ。お前にもう俺は必要ない。
  136.     俺には、お前だけが全てなのに。」
  137. 女  「兄さん!きいて!」
  138. 兄  「いつからだろう。愛しいお前を少しずつ憎らしく思えてきたんだ。
  139.     俺より必要とされ、俺より愛され、俺のことを捨てるんだ......」
  140. 女  「そんな!兄さん!」
  141. 兄  「苦しかった。とても辛かった。死ぬんじゃないかと思うほど。
  142.     ......だからね。思ったんだよ。どうしてこんなに苦シマナキャ
  143.     イケナインダ。苦シミノ素ハナンダ?」
  144. 女  「兄さん......?」
  145. 兄  「愛しい?憎いオマエガイナクナレバ苦しみがキエル。ナクナル。」
  146. 女  「お.........に......?」
  147. 兄  「寂しくないよ。俺とヒトツニナルンダ。ウレシイヨナ?
  148.     嬉しいだろう?」
  149. 女  「兄さん......」
  150. 姫  「そこまでじゃ!おぬし、まだ鬼にはなりきっておらんな。
  151.     今ならまだ戻ることは出来よう。」
  152. 男  「さ、こっちへ。」
  153. 兄  「邪魔をするのか?コイツは俺のモノダ。ダレニモワタサン!」
  154. 男  「聞く耳持たずかよ!」
  155. 女  「やめて!兄さん!」
  156. 姫  「よせ!目的はそなたぞ!」
  157. 女  「ごめんなさい。兄さん。私のせいで苦しめて。ごめんなさい。」
  158. 姫  「今なら、まだ鬼に堕ちなくともすむ!気をしっかり持て!」
  159. 女  「私は、兄さんが好き。愛してる。私にはずっと、
  160.     兄さんしかいないの。」
  161. 男  「ダメだ......それ以上言っちゃダメだ!」
  162. 兄  「ホントウニ?」
  163. 女  「兄さんが、苦しまずにすむのなら、私は、どうなってもいい。」
  164. 男  「違う!本当の苦しみは.........」
  165. 兄  「ぐるぁぁぁぁぁ!」
  166. 男  「やめろ!それだけはやってはいけないんだよ!」
  167. 兄  「邪魔をするなぁぁぁ!」
  168. 男  「うぉあ!くっそ!病み上がりで本調子がでねぇ!」
  169. 姫  「それ以上踏み込めば、後悔することになるぞ。地獄じゃ。
  170.     なんとか、何とか踏みとどまれ!」
  171. 女  「兄さんの...私は兄さんの役に立ちたい。恩返しがしたい。
  172.     兄さんの望みを叶えてあげたい。兄さん!」
  173. 兄  「喰わせろぉぉぉ!」
  174. 女  「.........うっ。......くぅ。」
  175. 鬼  「ぅぐるぅぅ。」
  176. 男  「くっそ!くそがぁぁぁ!」
  177. 姫  「.........すまぬ。非力なわしを許せ。」
  178. 女  「に......いさ......ん。わた......し......は......ああああああっ!」
  179. 姫  「......しっかり味わえ、それが、お前の罪。そして罰じゃ。鬼はの。
  180.     人を喰うから鬼なのではない。人を喰ってしまったから
  181.     鬼になるのじゃ。」
  182. 男  「...............」
  183. 鬼  「はぁ、はぁ。俺......は...??これは、どうして.........
  184.     オレガ?あ...ああ.........あああああっ!」
  185. 男  「鬼になるまでに、憎しみと葛藤して苦しむ。
  186.     だが、それ以上に・・・人を、愛しい人を喰ってしまった
  187.     という絶望感で、人は、鬼に堕ちるんだ。
  188.     オマエはまだ運がいい。他の人を喰わずにすむ。」

  189. ー村はずれー

  190. 男  「噂になりますかね?」
  191. 姫  「多少はな。しかし、人が鬼に堕ちる瞬間というのはなんとも。」
  192. 男  「あなたは餌にありつけるんだからいいんじゃないですか?」
  193. 姫  「茶かすでない!わしは、腹が減るのが罰なのじゃ。」
  194. 男  「へ~へ~。そうですか」
  195. 姫  「人の心というものはほんに、諸刃の剣じゃな。」
  196. 男  「そっすね。腹減り記録更新するといいですね。」
  197. 姫  「極限まで来たらお前の身を一つずつ喰らっていってやるわ!」
  198. 男  「ちょっ!それだけは、勘弁して下さいってば~!」

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