日本七夕の話
オリジナル台本
瀬織津姫(せおりつひめ)...天照大神の后:♀
天照大神(あまてらすおおかみ)...日の神様:♂
貴族...時の権力者:♂
神官...神を奉(まつ)る者:♂♀
ナレーション:♂♀
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- 瀬織「今、なんと?なんと申した?」
- 神官「はい。その......天照様を女神(にょしん)として奉ると。」
- 瀬織「なんという.........して、天照様は。あのお方はなんと申されたのです?」
- 神官「はい。時のさだめにお任せになると......」
- 瀬織「そうですか......少し。少し時間を。」
- 神官「はい。重々お考えのほどを。」
- 瀬織「あのお方を女神(にょしん)として.........」
- ナレ「7月7日はみなさまご存じの通り七夕でございますれば、
- その説は古来中国よりのお話を素に、古き日本の説が混じり合い、
- 現在の皆様がよく知るお話へと成したのだとか。
- しかし、その日本の古きお話を紐解くと、
- とある忘れ去られし女神(おんながみ)の記述が
- その姿を現すのでございます。
- この度は、その女神(おんながみ)のお話を幻想を交えてお話ししましょう」
- 神官「瀬織津姫様に申し上げましたところ、心中は複雑なようでございます。」
- 天照「まぁ、そうであろうな。なんせ、旦那がいきなり女として扱われる!
- となると、気が気ではあるまい。ははははは。(笑)」
- 神官「あ...はぁ。(汗)」
- 天照「我ら神は変わりゆくものではない。変わりゆくのは終わりあるモノ達。
- 我らはその変化を見定めるまで。」
- 神官「今一度、瀬織津姫様には説く所存でございます。」
- 天照「うむ。瀬織津姫にも、よきにしてくれ。」
- 神官「はい。」
- ナレ「所変わり貴族の屋敷」
- 貴族「まだか。まだ説き伏せられんのか!」
- 神官「申し訳ございません。」
- 貴族「こちらは神のような無限の時はないのだぞ?適当になだめればよい!」
- 神官「しかし、それでは......」
- 貴族「神とて、奉る者が居なければ意味をなさぬモノ。そうでおじゃろ?」
- 神官「.........はあ。今しばしのお時間を」
- 貴族「早ようにな」
- ナレ「天照大神は日の神。すべてに対し、産み出し、慈しむ。
- 瀬織津姫は水の神。育み、守る。この二神なくば、
- たちどころに生は途絶えてしまうでしょう。
- しかし、時のさだめとは残酷なものでございます。」
- 瀬織「なに?妾にこの地を離れよと申すか?」
- 貴族「瀬織津姫におきましては、他の地にて良きところを配しております。
- そちらへ御移りいただきたいと」
- 瀬織「そなたは、妾がこの地にいる意を知らぬとは申すまいな。」
- 貴族「ええ。存じております。ですから申し上げているのです。
- 天照大神様はすでに了承を得ております故、これは瀬織津姫様への
- 懇願ではありませぬ。すでに定めたことでございます。」
- 瀬織「妾の意を介さずそのような申し開きを.........
- これが、これが時のさだめというのか。」
- ナレ「天照大神と瀬織津姫は夫婦同士、その仲むつまじい夫婦が
- 別居を言い渡された。というような状況でございます。
- かくも哀しや。」
- 瀬織「本当にこのままでよいのか?妾は...妾は......」
- ナレ「そして舞台は天岩戸となります」
- 神官「瀬織津姫様。我らが話を聞いて下され。」
- 貴族「いったいなにをしておるのじゃ!」
- 神官「はい。天岩戸に瀬織津姫様がお隠れになられて。」
- 貴族「ふんっ!飽いてすぐに出てこよう。
- それよりも、川が氾濫を起こしておる。
- それを祈祷で何とかするのじゃ。」
- ナレ「さてはて、天岩戸に身を潜めた瀬織津姫。その真意とは?
- 岩戸に潜んではやふた月とあいなりました。」
- 瀬織「神として、人のような感情でこの様なこと.........。
- しかし、妾が荒ぶれば災いを呼び、それは妾とて真意ではない。
- この想いやいずこへむかえば......」
- 天照「まだ瀬織津姫は籠もっているのか?」
- 神官「はい。そのお心やお聞かせ願えぬままにございまして。」
- 天照「瀬織津姫よ。わしはどのようなカタチであろうと、
- そなたへの想いは変わらぬ。
- そなたがそこまで気を病むことではないぞ。」
- ナレ「返事がない。ただのしかば.........げふん。
- 岩戸は堅く閉ざされ、開く気配はありません。」
- 天照「うむ...なにか良い策はないものか。」
- 神官「様々な手段を尽くしましたが...これ以上思い当たるものが......」
- 貴族「おお、これは天照大神様。未だに瀬織津姫様の真意が
- わからずでございますなぁ。
- あ!明後日(みょうごにち)の宴の準備が出来ております故
- お忘れなきよう。」
- 天照「!?それだ!宴はこの場、天岩戸にて執り行おうではないか!」
- 貴族「は?ここで...でございますか?」
- 天照「うむ。楽しい宴の音あらば、瀬織津姫の心も和らぎ
- その姿を現してくれるだろう。」
- 神官「宴ですか...それは思いもよりませんでした。」
- 天照「やってくれるな?」
- 貴族「あ...はあ。かまいませぬ。」
- ナレ「そしてドンチャンドンチャン騒ぎ出す。天岩戸で大騒ぎ!」
- 瀬織「.........あのように嬉しそうに.........。すべては妾の杞憂か。
- あの方がよかれと思うこと、妾がいつまでも
- 反しているわけにもいくまいな。」
- 天照「あはははは!ほうれ。小さき悩みは捨て、楽しめ!」
- 瀬織「天照様...」
- 神官「おお!堅く閉ざされていた天岩戸が......」
- 瀬織「申し訳ありませぬ。天照様が御納得ならば、妾はそれに従います。」
- 天照「うむ。」
- 貴族「では、宴が終わり次第。取りかからせていただくがよろしいか?」
- 瀬織「ええ。ただ...」
- 貴族「ただ?」
- 瀬織「こうして、天照様とお会いすることが困難になるのなら、
- せめて一日でよい。今宵のような空に河がかかる日に
- 確実にその契りを交わせるようにしてはくれまいか?」
- 神官「私からもお願い申しあげます。」
- 天照「そうだな。その計らいわしとしても糧になろう」
- 貴族「あい、わかり申した。では、今宵のような空に河がかかる日。
- その一日は夫婦としてお二人をお奉りいたしましょう。」
- 瀬織「妾はいついかなる時も、天照様をお慕い申しております。」
- 天照「わしもだ。瀬織津姫。」
- 神官「ようございました。本当に。」
- 貴族「これで、女帝(にょてい)を据えるのに手回ししやすくなる
- というもの。まったく、手間をかけさせられたものよ」
- ナレ「空の河。天の川がかかる今宵7月7日。
- 天照大神と瀬織津姫は、互いの愛を深めあう契りを交わしたのでした。
- しかし、語り継ぐにはさわりあり。
- 瀬織津姫は虚(きょ)となり闇へと忘れ去ることとなったという。
- 実際の記述等、異なりましょうが、このお話は
- あくまで夢、幻にございます。」
終