リナ一人旅
スレイヤーズ
リナ・インバース:♀(CV林原めぐみ)
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- 青い空!白い雲!立ち込める噴煙(ふんえん)!
- ・・う~みゅ。
- 我ながら、ちとやりすぎたかなぁ・・・と、思わなくもない。
- それはうららかな昼下がりのこと・・・。
- あたし、美少女天才魔導士こと、リナ・インバースは、
- のんびりとそのひと時を満喫(まんきつ)していた。
- 隣町までは草原をはさんで目と鼻の距離。
- なので、あたしはピクニック気分を味わっていたのだが・・・。
- そこに明らかに似つかわしくない風体(ふうてい)の
- ごっついおっちゃんが2人。
- お互い違う街から同じ歩幅、タイミングでやってくる。
- 同じ様な油ギッシュで同じ様なヒゲ配置。
- まるで鏡で映したような見事なシンメトリー・・・。
- ごっついおっちゃんだけど。(汗)
- おっちゃん達はあたしのところに来るなり、
- お互いをにらみ合い、同時にこう言った。
- 『天才美少女魔導士、リナ・インバースどのですね?』
- 見事なハモリ具合で声もごっついけど・・・(汗)
- 『わしが先に声をかけたんじゃぁ!!』
- と、またハモった。
- 『リナ殿!わしですよね!わしの話をきいてくだされ!!』
- 同時にしか行動できんのか!このおっちゃんらは。
- あたし的には正直どっちでもいいというかぁ。
- このせっかくのピクニック気分の乙女心をどうしてくれようか!とか、
- そんな風に思っていたわけで・・・。
- それから、日が暮れるまでおっちゃん達の押し問答。
- というか、"あたしを雇う"とか終わらない競(せ)り合いが行われていた。
- せっかくの気分が台無しじゃぁ(泣)
- ちなみに、おっちゃん達があたしを挟(はさ)んで
- ずっとハモり会話していたことは言うまでもない。
- とりあえず、あたしは2人を無視で決め込み進行方向の街へ向かった。
- なんだろうなぁ・・・。
- 相手もしていないのに、この疲労感って・・・。
- そして、後ろにいるおっちゃん1人が大喜びしているのは、そっとしておこう。
- あたしも色々な所を旅している以上、似た様な街や村などは、
- まぁまぁ無いこともない・・・。
- が、隣町に感化されて・・・というにはあまりにもそっくりというか、
- 丸写しというか・・・。
- あたし、来る方向間違えていないよね?
- あ!宿屋の場所は一緒だけど、名前が違うや!よかった。
- しかし店の配置や公園の位置まで、
- まるでおっちゃん達の様なシンメトリー・・・。
- ん?そういえばあのおっちゃん、どこかで見た様な・・・。
- その謎は、次の日にすぐに解けた。
- 町長の使いだという女性が、朝っぱらからあたしを訪ねてきたのだ。
- そして、公園の脇を通る時、公園の中心にある銅像に目がいった。
- マッチョムキムキなあのおっちゃんだ。
- 銅像の下には、"親愛なる町長"と・・・。
- あ~・・・これか。
- 確かに昨日も見た。
- 隣町の公園で。むこうは確か、"敬愛(けいあい)なる町長"だったかな?
- それもこれまた、まるっきり同じポーズだった。
- ・・どこまでもそっくりだなぁ。この双子。
- かくしてあたしは、ごっついおっちゃんの話を聞く羽目になるのだった。
- 『いや~、リナ殿!よく来て下された!!ささ、どうぞ。どうぞ!』
- ・・やっぱし、朝でもあつくるしひ。
- 「あのぉ、ところでなぜ、あたしがリナ・インバースだと?」
- いちお、人違いですぅ。と言えるニュアンスは残してある。つもり。
- 『いやー、旅の商人が"この近辺の盗賊のアジトが壊滅(かいめつ)した"
- と聞きましてなぁ。それも、1人の美少女魔導士にらしい・・・
- ということで、もしやと思いましてな?ガハハハハハ』
- ああ、言い逃れしにくいなぁ・・・。
- まだその盗賊から拝借(はいしゃく)したお宝が、
- 懐(ふところ)にあるんだよねぇ・・・。
- ま、いいか。
- 「んで?あたしに何の御用です?」
- もういいや。さっさと面倒ごとを片付けよう。
- おっちゃん・・・もとい、町長によると。
- 隣町には双子の弟が町長で、何でもかんでも真似をする。
- どちらがより優秀なのか決めて欲しい。
- ・・という兄弟げんか並みの話だった。
- 「そんなこと、わざわざあたしじゃなくっても・・・。」
- 『いや、わしの方が優(すぐ)れているという証(あかし)に、
- 弟のものは木っ端微塵(こっぱみじん)にしていただきたいのです!
- そこでリナ殿の力が!!』
- は?
- あたしは何か?破壊要員か??
- 「えっと・・・具体的に何をすれば?」
- なんとなく察(さっ)しはつくが、いちお確認してみる。
- 『そうですな。まず、あちらの街の公園の趣味の悪い銅像を
- 壊してきていただけますかな?』
- ・・やっぱし。"自分も同じ趣味の癖して"、
- なんてことはけして口には出さないけれど。
- あたしは適当にやればいっか。と思い、徒歩数10分の隣町へ。
- 銅像の前に来ると、どこからかぎつけたのか、
- ごっついおっちゃん・・・もとい、
- この街の町長弟の方がこちらに向かってくる・・・。合ってるよね?
- 『おお~リナ殿!わが街に戻っていただけるとわっ!
- どうですかな?趣味のいい銅像でしょう?ガハハハハ!!』
- ・・ほんと、どっちもどっちだなぁ。
- 『ところでリナ殿、もしや我が兄と何かを交わした・・・
- という事はないでしょうな?』
- こりは・・・わかってて言ってるな?
- 「あ~・・・ん。別に交わしたという訳では・・・。」
- ひとまず、前金の金貨は貰ってるけど。
- 『リナ殿。こちらはその倍だす。といったらどうなさいます?』
- ピクッ・・・倍かぁ・・・。
- 「前金でぇ、半額は貰っておきたいんですけどぉ・・・。」
- 『よいでしょう!私のお願いをきいていただけるのなら。』
- と、話し出した内容は、まるっきし町長兄と同じだった。
- ひとまず、前金を貰い、適当に銅像と似た色の石を拾い、
- 町長兄のもとへ・・・。
- 残りの金貨を貰い、同じくそこらの石で町長弟のもとへ・・・。
- よし!これで無事に解決!!
- とは、うまくいかなかった・・・。
- その日はそのまま弟の街で泊まったのだが、
- 夜明けとともにそれはやってきた。
- 『リナ殿!!どーいうことですか!!』
- あ、・・・あ、・・・ああああああああ~!
- あつっくるしいおっちゃんの目覚ましハーモニー・・・。
- どうやら自分の目で木っ端微塵になっているであろう銅像を
- 確認しに行った2人が同時刻、あたしのところに講義に来たのである。
- ・・いやだ。目覚め一番でこんな光景なんて。(泣)
- あたしは狸寝入りを決め込むことにした。
- 時間が来れば秘書か何かが迎えに来るだろうと・・・。
- しかし、そこまでは待つ余裕はあたしには無かった。
- すぐそばで、油ギッシュな兄弟ゲンカハーモニーが繰り広げられ、
- こともあろうにそれは、あたしにも飛び火した。
- 『こんなずんぐり小娘なんぞをお前が雇ったりするからだ!』
- ・・ずんぐり小娘?ピクッ
- 『ぼったくり破壊神に頼む方が悪い!』
- ・・ぼったくり?・・・破壊神??ピクッピクッ
- 『胸も成長しとらん小娘に任せる悪趣味め!』
- む・・・ピキピキピキ。ぷっちん。
- あたしはゆっくりと、そして静かに起き上がりながら、
- その言葉を唱えていた。
- 「黄昏よりも昏きもの
- 血の流れより紅きもの
- 時の流れに埋もれし
- 偉大な汝の名において
- 我ここに闇に誓わん」
- おっちゃん町長達が何かの気配を感じ、ケンカを中断し我に返る。
- 「我らが前に立ち塞がりし
- すべての愚かなる者に」
- ゆっくりとこちらを確認するが、もう遅い!!
- 「我と汝が力もて
- 等しく滅びを与えんことを」
- 必死に止めようとくらいついてくるおっちゃん町長達に向かって、
- あたしは何のためらいも無くそれを打ちはなった。
- 「ドラグスレイ~~~~~~~~ッブ!!」
- 結果。あたしの放ったドラグスレイブは、弟町長の銅像を粉々にし、
- 隣町の兄町長の銅像をも木っ端微塵にするという威力だった。
- ふむ・・・。2つの街半分づつ、これで両成敗!
- 依頼はきちんとこなしたんだから、金貨は貰ってもいいよね?
- 2人並んで仲良くピクピク焦げている町長達を横目に、
- あたしは宿・・・というか、この2つの街をあとにした。
- 幸い、あの草原は無事であった。
- うん、青い空、白い雲!
- 今日も、いい天気だ~♪
- ・・その後、その街や町長の仲がどうなったか、
- なんてあたしは知らない。
- もう2度と、あの街に行くことはないだろう・・・。
- ってか、行きたくな~い!!!
終